税務調査なんて怖くない ④

 西川口税務署管轄の印刷会社に調査が入った。売上高20億円超、従業員50人の会社である。通常、このくらいの規模の会社には特官(特別調査官)部門の人が来るのだが、西川口税務署には特官部門がない。そこで、隣の川口税務署の特官と上席調査官、それに西川口税務署の平調査官の3人の連合チームが3日間やってきた。
 初日は社長による会社概要の説明と工場見学、経理担当者への簡単なヒアリングなど軽いジャブの応酬程度だったが、2日目はガチンコの真剣勝負になる。
 分厚い総勘定元帳3年分を上席と平調査官が血眼になってめくり、付箋を貼った箇所を特官が見て、請求書や領収書などの原資証憑をチェックする。経理担当者は資料を探したりコピーを取ったり大忙しである。
 そこの会社は決算日が月末ではなく20日だった。9月21日から翌年の9月20日までが一事業年度だ。2日目の帰り際、特官がニヤリと笑って私に言った。
「9月21日から30日までの水道光熱費が計上されていますね」
しまった、家賃や駐車場代などは日割りで計上していたが、水道光熱費は日割り計上していない。
「それでは、また明日よろしく!」意気揚々と3人は帰っていった。
 その後、社長と経理担当者と遅くまで協議をし、対抗策を考えた。

そして3日目。
「おはようございます。特官のご指摘通り、水道光熱費は10日分過大に計上しておりました。修正申告させていただきます」と私が言うと、特官は満足げに肯いた。
「ところで、当社の給与は15日締めの25日支払いでして、16日から20日までの給与分が未計上になっておりました。当然、それを計上してもよろしいですよねぇ…」
 私はニヤリと笑いながら言った。特官の頬が引きつっていく。絶対にタダでは勝たせない。

(プチ解説)

「税務調査」というと経営者や会計担当者は怖がります。私も昔はそうでした。
 しかし、税務署員はそれが仕事です。月に4~5件はこなさなければならないのです。
 そして調査に行った会社で何か見つけて追徴課税をさせられるかどうかで評価されます。
特官クラスが「うさぎ一匹見つけられませんでした」では済まないのです。
 税務調査は先輩署員が後輩にOJTで仕事を承継する場でもありますが、「そんなに簡単じゃないよ」と教えてあげるのも私の役目…ではなくて顧問料と決算料と立会料をいただいている顧問先に対する私の職務です。

執筆者紹介 

【名前】
野口 義幸(のぐち よしゆき) 

【取得資格等】
事業承継士、中小企業診断士、1級ファイナンシャルプランニング技能士  

【自己紹介】
大手流通企業2社で、販売促進、営業、経営企画室長、総務課長を歴任。また、マネジメントゲームとパソコンを活用したセミナーの講師として延べ2,000人以上の経営管理者教育を実施。現在は都内の会計事務所に所属し、財務会計指導を中心に法人の経営コンサルティング、個人のライフプランニング等を行っている。また、ジャズドラマーとして定期的に都内のライブハウスに出演している。