税務調査なんて怖くない③ 

 浦和税務署管轄の会社に税務調査が入った。20代後半の税務署員が一人で来た。息子よりも若い。

野口:「ねえ、なんで税務署に入ったの?」

 署員:「やっぱり、公務員って安定しているじゃないですか」

野口:「お父さんも公務員?」

 署員:「いえ、父は建設関係の下請けの仕事をしています」

野口:「へえ、お父さんの跡を継いだ方がよかったんじゃない?」

 署員:「いえ、個人事業主は収入が不安定なんですよ」

野口:「お父さん、悲しまなかった?」

 署員:「弟が跡を継いでます。私は税務署員になったので、家族や親戚からは白い目で見られてます」

野口:「税務署以外にもいろいろな公務員あるじゃない」

 署員:「そうなんですよ。O簿記学校は公務員合格率90%以上っていうんで通ったんです。でも1年目に受かったのは自衛隊だけでした」

野口:「行く気もないのに自衛隊受けたの?」

 署員:「O簿記学校の実績作るために受けさせられたんです。でも1年浪人したあと、いくつか受かりました」

野口:「ふーん、どこ受かったの?」

 署員:「国税局と県税事務所と消防署に受かりました。市役所落ちたけど…」

野口:「で、税務署選んだのか?私が君のお父さんだったら県税事務所を勧めたな」

 署員:「どうしてですか?」

野口:「埼玉県以外の転勤はないし、固定資産税や償却資産税の調査くらいで国税の調査よりは楽そうじゃん。給料も同じようなもんだろうし」からかい半分にテキトーなことを言った。

 署員:「えー、本当ですか?県税事務所に行った方がよかったかなあ。失敗したかなあ」

 そして翌日も

 署員:「やっぱ、県税事務所に行った方が良かったですかねえ」

野口:「もう、年齢制限過ぎちゃってるから、税務署で頑張りな」と励ました。

 署員:「もっと早くノグチさんに会ってればよかったな」

そりゃ無理だろう。君が税務署に入ったから、私と知り合ったんだから…。

(プチ解説) 

 税務調査はだいたい二日間です。二人で来ることが多いのですが、小規模企業や赤字企業には一人で来ることもあります。 調査官と立会人は二日間マンツーマンで過ごすので、自然と雑談も多くなります。 私は「どうして税務調査官になったのか?」を必ず聞きます。
「父親が公務員だったから」「公務員は安定しているから」と答える人が多いのですが、今回のように「自営業の父親は収入が安定していないから」というのも本音でしょう。 私も町工場の跡取り息子でしたが、跡は継ぎませんでした。カメラ部品の下請け会社の外注工場は今の日本には一社もありません。
そして中小企業の息子は中小企業診断士になりました。

執筆者紹介 

【名前】
野口 義幸(のぐち よしゆき) 

【取得資格等】
事業承継士、中小企業診断士、1級ファイナンシャルプランニング技能士  

【自己紹介】
大手流通企業2社で、販売促進、営業、経営企画室長、総務課長を歴任。また、マネジメントゲームとパソコンを活用したセミナーの講師として延べ2,000人以上の経営管理者教育を実施。現在は都内の会計事務所に所属し、財務会計指導を中心に法人の経営コンサルティング、個人のライフプランニング等を行っている。また、ジャズドラマーとして定期的に都内のライブハウスに出演している。 

現場における事業者様への支援については、様々な進め方があります。
このブログでは個々の会員の体験に基づいたお話をお伝えしております。