税務調査なんて怖くない⑦
ある顧問先に初めての税務調査が入った。
担当調査官は税務大学校の研修が終わって税務署に配属されたばかりの女性だった。2日間書類をいろいろチェックしたが何も見つけることができず、預かり証を書いて3年分の総勘定元帳を持ち帰った。ベテラン調査官だったら断ったかもしれないが、新人の女性ということもあり貸してあげた。
税務調査から3カ月たって、税務署から私のところに電話があった。調査にきた新人女性からではなく統括調査官(民間なら課長クラス)からだった。社長と2人で署まで来てくれという。署といっても警察署に重要参考人として呼ばれているわけではなく、税務署だから大丈夫ですよ、と怖がる社長と一緒に赴いた。
パーテーションで区切られたミーティングブースに通されると統括と新人女性が現れた。
「けっこう時間がかかりましたね。で、何か見つかりましたか?」
と余裕しゃくしゃくで私は尋ねた。会計処理には自信があった。
「会計は適正に処理されておりましたが、1点気になるところがありまして…。それを調べるのに時間がかかってしまって、申し訳ありません」
「ん?」
「このフィリピンパブにしょっちゅう行かれているみたいなんですがね…。本当に仕事上のお客さんの接待で行かれているんですかね?」
「はい、取引先の方への接待で使っています。領収書も全部取ってあります」。社長が抗弁した。
「ところがですね、15,000円とか18,000円という金額がけっこう出てくるんですよ。私もこのお店に行って確認しましたが、1人最低10,000円はするお店なんですよね」
「会員になっていますので、8時前に入ると割引になるんです」。社長は必死に抗弁した。
「しかし、8時前にフィリピンパブに行きますか? お客さんと食事をした後、二次会で行くような店だと思うんですが」
こういう場合は早く認めて傷口を広げないほうが得策だと、頭の中で素早く駆け引きを考えた。その間にも追及は続く。
「ということは、20,000円未満の支払いの日は、社長さんが1人で行ったのではないですか?」
社長も諦めたような顔をしている。
私はすかさず
「それでは、20,000円以上は交際費で、20,000円未満は損金不算入ということで、すぐ修正申告します」
1人で行っても延長して20,000円以上遣っている可能性もある。先に20,000円という金額で線引きして否認額を最小に抑えるしかなかった。こういったことは早く片付けた方がいい。
「わかりました、20,000円で区切りましょう。では、修正申告よろしくお願いします」
この統括はわざと新人女性1人で調査に行かせ、元帳を持ち帰らせて調べたのだろう。
なかなかの曲者だ。税務署の経費でフィリピンパブまで行ったことだし…。
(プチ解説)
新人女性が1人で調査に来たのは初めてでした。総勘定元帳を貸し出したのも初めてです。してやられました。その後は元帳や原始証憑の貸し出しはしないようにしています。
部下を育てる(仕事を承継する)という意味では、彼女はちゃんと成長しているのでしょうか?
執筆者紹介
【名前】
野口 義幸(のぐち よしゆき)
【取得資格等】
事業承継士、中小企業診断士、1級ファイナンシャルプランニング技能士
【自己紹介】
大手流通企業2社で、販売促進、営業、経営企画室長、総務課長を歴任。また、マネジメントゲームとパソコンを活用したセミナーの講師として延べ2,000人以上の経営管理者教育を実施。現在は都内の会計事務所に所属し、財務会計指導を中心に法人の経営コンサルティング、個人のライフプランニング等を行っている。また、ジャズドラマーとして定期的に都内のライブハウスに出演している。
現場における事業者様への支援については、様々な進め方があります。
このブログでは個々の会員の体験に基づいたお話をお伝えしております。